直流負荷線と交流負荷線

「トロイダルコア活用百科」応用編第2章 小信号広帯域増幅器 p133の例を題材に

負荷線を調べてみます。

ここでは、2SC1815を使います。

コレクタ負荷は 1:9の伝送線路的トランスを使っています。

直流成分を黒色、交流成分を青色で書きます。

エミッタ電圧、コレクタ電流も同様にします。

 

まず、電圧の関係は

       Vcc = RLx ic+ (VCE + ce)+ (VE + ve

RLは交流に対してのみリアクタンスを示す。

コレクターエミッタ間の電圧Vceは、直流と交流が混ざったものになります。(すなわち VCE + ce 

ここで、交流成分がゼロとすると

ic=ice=ve=0

上式は

       Vcc = VCE+VE

と、なりますが、

エミッタ電圧 VEは

       VE=RExIc

ですので、結局

       Vcc = RExIc +VCE

と、なります。

       VCE=Vcc ― RExIc (1)

これが、直流負荷線です。(要は交流成分がない時のこと)

具体的には、「トロイダルコア活用百科」の例では

        Vcc=10V、RE=100Ω

連立方程式

10a+b=0

9a+b=0.01

, 解は: {a=-0.01,b=0.1}

直流負荷線   y=(-1/100)x+1/10

だから、直流負荷線は

次に、交流の場合

もとの式

              Vcc = RLx ic+ (VCE + ce)+ (VE + ve) 

 

から、直ぐに求まりませんが、変形して

VCE + ce)=Vcc RLxic―(VE + ve

となる、直線を求めたいわけです。

Veは、交流成分のエミッタ電圧ですが、

今、エミッタは、コンデンサーでアースされていますから、(交流成分に対して十分にインピーダンスを低い値に決める)

Ve=0

となります。

ですから

VCE + ce)=Vcc RLxicVE

 

動作点を求める

「トロイダルコア活用百科」p.133の広帯域増幅器の例では

動作点のコレクタ電流が10mAと、既に決まっています。

このときの交流負荷線を求めます。

交流負荷線は、Ic=10mA、Vc=9Vの直流負荷線上の1点を通り

傾きが

       直流負荷+交流負荷=100+450=550Ω

ですので、交流負荷線を描けます。

 

連立方程式

9a+b=0.01

a=-1/550

, 解は: {b=2. 6364×10⁻²,a=-1. 8182×10⁻³}

交流負荷線

            y=(-1/550)x+26.364/1000  

一般に

     最適コレクタ電流は

     電源電圧/(直流負荷+交流負荷)

で、与えられます

 

[ 出典「増幅回路の考え方 改訂2版 砂沢 学著 オーム社 」 ]

ですので

       直流負荷線:直流負荷だけで計算する。

       交流負荷線:交流負荷を加える。

                次段の入力インピーダンスも、並列の負荷として計算する

と、いうことになります。

 

次に、最適な動作点を求めます。

最適な動作点になった時の、直流コレクタ電流Icqが、もし、見つかったとしたら

この、動作点は、直流負荷線上にありますし、同時に、交流負荷線上にも乗っています。

 

そして、交流電圧、電流も、この動作点を中心に動きます。

ですので、交流動作の時の、直流のコレクタ電流はIcqです。

最適コレクタ電流は

Vcc/(直流負荷+交流負荷)

ですから

       10/(450+100)=0.0182A=18.2mA

と、求まります。

 

そして、出力電圧が最大になるように、交流負荷線を決めます

 

以上より、

コレクタ電圧がゼロになる点は、コレクタ電流Icqic18.2mAの2倍、36.4mAになる時です。

これで1点が求まりました。

もう一点は、直流負荷線とIc=18.2mAの交点です。これが最適動作点Qです。

(動作点は、直流負荷線上にあるし、交流負荷線上にもありますので

 なんでか言うて、交流成分がゼロの時も、交流負荷線上に乗ってるから)

青線が、Vc=10V、動作点Ic=10mAの交流負荷線

黄線が、Vc=10Vの時の最適負荷線

青線も黄線も、Ic=0mAになるコレクタ電圧が、電源電圧を超えていますが

これは、負荷がコイルであるから、こういう現象が起こります。

出力電力の計算

コレクタ電流が10mAの時

交流電圧はVc=9Vを中心にして、+−5.5Vふれます。

そして

交流負荷450Ωは、50Ωに 1:3^2の比で変換されますから

50Ωに変換された負荷には 1/3の電圧 5.5/3 Vが現われます。

したがって、

最大出力は、rmsで

       (5.5/3√2)^2 / 50 =3. 3611×10⁻²=33.611mW=10log33.611= 15. 265dBm

コレクタ電流が18mAの時

交流電圧はVc=8.2Vを中心にして、+−8.2Vふれます。

 

最大出力は、rmsで

       (8.2/3√2)^2 / 50 = 7. 4711×10⁻²W =74.711mW = 10xlog74.711 = 18. 734dBm

と、なります。

「トロイダルコア活用百科」p.133の広帯域増幅器の例では

コレクタ電流を、Vcc=10Vの場合の最適コレクタ電流に、選んでいませんが、

Ic=20mAの場合も、掲載されています)

入力インピーダンスが、コレクタ電流に関係して来るからでは

ないでしょうか。

( エミッタ接地増幅器の入力インピーダンス ri = rb + β x 25/Ie(mA) で、計算されますので)

 ( 「Principles of Transitor Circuits   Stan Amos & Mike James 」p.68 )

      

     最適コレクタ電流は

     電源電圧/(直流負荷+交流負荷)

が、メチャ、大事です。

増幅する電圧が、小さい範囲に限られる時、無理に最適コレクタ電流にする必要は

ありませんよね。

 

H14.01.15